恍惚のカツ

2003年10月31日

カツはどんどん良くなってる。
でも本人は不安でたまらないらしい。
身体がかたまってる感じ
手も足もない感じ  と伝えて来る。

目は視界が狭く両方とも見えにくい
耳は、エコーがかかって言葉が聞き取れない。

それはまるで拷問でしょう。
かわいそうなカツ。

自分の手が見たいと言うので、目の前にもって行く。
くい入るように見つめるカツ。
腕も全部見せてと言う。じっと見つめて
指も動かしている。

目の前に手を持っていき、グーチョキパーしてみてよ
と言う。私もいっしょに、グー、チョキ、パー
くり返す。動いている自分の手を真剣に見つめるカツ。

ほらね、動いてるでしょ。
これがあなたの手だよ。

実感がわかないらしい。足は全く動かない。

筋肉が固まらない様に、足首の動かし方を
看護婦さんが教えてくれた。サリーが毎日やってあげるからね。

大丈夫。大丈夫。

動かない身体が不安なせいか、しょっちゅう文句を
言って来る。

向きを変えて。頭を上げて。まくらを高くして。
ベッドを上げて。暑いからふとんをはがして。

動けないでいるストレスで、胃潰瘍になるケースも
あるらしい。だから文句はいっぱい言って良いよ。
自分の意志が伝わる事で、少しでもカツの気持ちが
楽になるならそれで良い。
でも、看護婦さんには、ちょっと迷惑?

サリーはね、カツに言いたい事、話したい事
いっぱいあるねん。
でもな、カツもきっといっぱいあるねん。
だからサリーの分は、今はがまんして、
カツの言いたい事をきくからね。
サリーがカツの口やねん。

今日はいろんな事があったね。
おとなりのベッドの人、亡くなった。
サリーがお洗濯に行ってる間に。

帰ってきたら、カツの様子、変。

黒いの誰の?
黒いって何が?
死神

看護婦さんに聞いたら、となりで亡くなって
ザワザワしたからおどろいたんじゃないかと
言われた。

死神は、となりの人を連れてったの。
カツのじゃない。
サリーおらんかったから恐かった?不安だった?

うんうん、うなづく。
大丈夫。カツは強いから、死神に嫌われてん。
そう書くと、また、うんうん。

この間まで、死にたいって言ってたくせに
今はもう、死にたくないんやね。ちょっと安心。

きっとこの間ふたりで見た「ゴースト」の映画
思い出したんやね。

どんどんカツは、本来のカツにもどってる。
頭の中は、とてもクリア。

見た目は「恍惚のカツ」やけどねぇ。
そんな皮肉を自分で言えるくらい元気なカツ。
あなたの生命力には頭が下がります。

がんばれカツ!がんばれ、がんばれ。
サリーはずーっとカツとおる。
ずっとずっとそばにおる。

ダメなのは、あなたじゃなくて私。
ひとりの時間、たえられない。
誰かと話をしていたい。
誰かの声をききたい。でもダメ。
一番必要な、あなたがいないから。


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