生命の戦場

2003年11月2日

今日もカツはわがままオンパレードやった。
看護婦さんにはうまく伝わらない分、カツの顔を見るなり、ああしろ、こうしろ。文句ばっかり。でもサリーは全然腹が立たないよ。
前はね、「いつか寝てる間にぬれティッシュ鼻と口にかぶせてやるー!!」って怒ってたこともあったけど。今は、文句言えるくらい元気になってるカツがうれしい。

カツが元気やとサリーも元気になる。
やっとお腹すいたーって感じるようになった。
でも夜になると寂しいカツ。もう寝なさいと言っても、カツが寝たらサリーは帰ると思ってがまんしてる。目がとろーり。うとうとしてるのに。
「サリーに一晩中いてほしいねん」
でもな、病院にはサリーは泊まれないんよ。

寂しいのはカツだけやない。
サリーも淋しい。チン君(愛猫)も淋しい。
家族がバラバラやからね。

明日からはちょっとはずせない仕事が続く。
カツは怒るかなあ。
ただでさえ耐え難い状況やのに、サリーがおらんと淋しくて、また泣き虫ウサギになるんかなあ。

ゴメンね、カツ。
できる限り、いっしょに居られるように考えるからね。
もうちょっとだけ、がまんしてね。

カツの状態。右手、腕が上げられる
左はひじまで上がる。グチョキパーもできる。

目はあいかわらず、左右が動かない。顔ごと動かす。
上下はちゃんとできるのになあ。
明日、もう1回説明して、左右に動かすように言ってみよう。

心配していた足は、どうやら動きそうな気配。
右足は今日、サリーが足首運動やってたら、キックした。
左側も足のウラ、コチョコチョに反応した。
感覚が全く無い訳ではないらしい。ほっとひと息。

それからようやくうんちも出た。内臓も動いてる。

耳も聴こえないわけではない。ただ長い文章は、どうも理解できないらしい。
最初は、単語の聞き取りから。看護婦さんにも言われた。
うん、それならわかるよ!英会話とかとおなじや。

声も出ないわけじゃない。痰がつまって話にくい。
舌も口も動かしにくい。今はまだそんな状態。
なのにがんばって「サリー」って呼ぼうとしている。
そしていえない自分にガッカリしている。

大丈夫や、カツ。何とかなるよ。
カツは絶対良くなるねん!サリーはカツを信じてる。
たくさんたくさん愛情をそそぐ。
してほしいこと、何でもしてあげる。
サリーのこと、うんと一人占めしていいからね。


今はただ、生命が愛しい。
生きている事、その事自体が、何て素晴らしいこと!と思える。

痰が出る。咳も出る。うんちも出る。
確かにそれそのものは汚いものかもしれないけれど、
それこそ生命の証やと思う。

ICUは生命の戦場。皆ベッドの上で戦ってる。
この10日間でふたり死んだ。
弱ってる人は何だかすぐわかる。見るからに弱弱しい。
アラーム音は鳴りっぱなしで、呼吸の音は人工的で。

だからサリー、カツがよくなるってわかるねん。
ゲボゲボ、ゴロゴロ言ってても、生きようってしてるもん。

カツは強い。本当に強い。
強くたくましく戦う男やね。
だから看護婦さん達にも人気があるねん。
彼女らだって良くなっていく人を助けたいねん。

でもね、浮気したらあかんよ。

あんな、カツ。夜が長いねん。長すぎんねん。
昼間、カツとおる時間はあっという間やのに。
一人は淋しいね。カツも同じかな。
2時間おきに体勢チェックで起こされてそのたびに「サリーおらん!」て思ってるかな。

泣いたらあかんよなー。

夜明け前に
いつも目が覚める。
大昔からの私の悪いクセ

あなたと居る時はね
うー重い、何だこの腕!とか
もっと広々手足を広げたい!とか

でもその息苦しさが
かえってとても安心で
人の寝息の聞こえる場所は
平穏なくらしの場所だった

悪夢は突然おとずれる
いや、それは今
悪夢ですらないまぎれもない現実

ツメを立ててもつかみきれない
ガラスの谷をすべり落ちる。

今はただ そばに居ないあなたの
大きくて温かい身体がなつかしい

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