病院の生活

2003年11月24日

カツは、本当は思いやりがあって優しい人。
それは、サリーが一番良く知ってる。
まだ、結婚する、うんと前のこと、ふたりで夜道を歩いていたら、道路で猫がひかれて死んでた。
カツはその猫の身体を歩道に運んで、
「飛び出すからいけないんだ。かわいそうに」と言って涙ぐんだでた。
何てピュアな人って思ったんや。

今日、病院に行くと、カツはまた泣き虫になってて、
「カツのひらがな貸してあげて」と言う。
話を聞くと、お向かいのベッドの女の人、
口も聞けなくて、寝てるだけの人。
その人のご主人が来ていて、何か、話かけていたんやね。
「あのふたり、お話もできない、かわいそう」

自分たちがそうだったから、その苦しみ、悲しみが良くわかる。
サリーがつくった文字盤があったら、少しでも話ができるかな?って思ったんやね。
サリーが、文字盤を持って、そのご主人に使いかたを説明すると、
「うちのは、聴こえてるのか、見えてるのかもわからないんです。」

「目があいてるんだから、きっと見えてますよ。うちもそうでした。
私はずっと話しかけ続けたんですよ。何かきっかけになるかもしれないから、
どうぞ使ってください。」
そういってホワイトボードも貸してあげた。
ご主人は、何か書いては、また、話しかけてたね。

皮肉なことに、カツは、こうなって初めて自分の優しさを素直に表現できるようになった気がする。
今までは、気恥ずかしさが先に立つのか、ずい分辛口だったもの。



カツの日課

夜中、3時と6時に目がさめる。
ちゃんと寝れないらしい。
仕方ないかもしれないけど、かわいそう。

9時までぼーっとすごす。
あと何時間でサリーが来るかってそれだけを考えて時計を見てる。

サリーが行くのは、平日は午後1時。土日は午前11時。
でもいろんな用事やなんかで、その日によって、早くなったり遅くなったりする。
そのたびにカツはよろこんだり、泣いたり。

でも、今は、鼻のチューブのせいで息がしにくいから、
なるべく泣くのは我慢してるらしい。

サリーが来たら、とりあえず、鼻そうじ。
それから痛い所にゼノールを塗ったりシップしたり。
日によっては、うんこまみれの物たちの洗濯。
まわりの人達にもくさくて悪いから、サリーとしては、なるべくうんこは早く片付けたい。
でも、カツは5分ですませて帰ってきてという。
仕方ないから、うんこの水洗いを5分おきに中断してカツのベッド横にいく。
水洗いしないと洗濯機にも入れられないのに。

そんな何だかんだをしているうちに、すぐに午後の時間のお待ちかねの車イスタイム。
車イスっていっても、リクライニング出来るストレッチャーなんやけど、
それでもベッドから離れられるのは嬉しいみたい。
まず、洗面所に行って、歯磨き。
今は、カツは歯磨きがお気に入りらしい。
前はあんなに面倒がっていたのに。

それから、のびてる日は、ヒゲそり。
歯磨きもヒゲそりも、ちょぴっとだけど、自分でできる。
くちゅくちゅもできる。できるってこと、すごいよね。
そのしぐさで、その日のカツの状態がわかる。

その後は自由時間。今のカツは売店が気に入ってる。
最初は、ほこりっぽくて嫌とか、カツが行ったらジャマとか
気にしてたけど、サリーはおかまいなしやねん。
あんな、カツ、卑屈になっとってもしゃーないねん。
こんなときこそ、開き直りがかんじんやねんで。

売店には刺激が多い。
あれが食べたい、これも飲みたい。
とりあえず、飲み物は、何でも買ってあげるよ。
今日は、靴下も買った。夜になると足が寒いらしい。

病院はふしぎな所で、床ずれができそうなところは、本人が嫌がっててもふいてくれるのに
手足に関してはかなりアバウト。本当はそういう所こそ、
たんねんに洗ってほしいんやけどなあ。
カツの手足(特に指や、指の間)には、あかやほこりがいっぱいつまって固まっていた。
サリーだって最初は、カツの生命の問題の方が先決やから、全然気づかないでいた。
気がついたときには、もう、遅いって感じの、ものすごい状態になっとったね。

それから、手足は、毎日、ベビーオイルでマッサージした。
汚れが落ちるようにと、血行がよくなるように。

今日はサリー考案の「足洗いセット」で、足湯した。
台所用の食器置きの水うけ箱と、おふろ洗い用のくつ。
四角だと、車イスの足置きの所にもおける。
おふろ洗いぐつは、本当は、中の靴下とかが、ぬれない為に作られたんだろうけど、
サリーのやり方は反対。車イス状態で、それをはかせて、中にバブとか入れて、足の温泉にする。
「どう?」
「いいかんじ〜」よかった。

それから、食器洗い用のナイロンのスポンジで、足をこする。
せっけんは、DOVEのハンドウォッシュ。においもお風呂に入ってるみたいだしね。
最初は、あかすりが良いんじゃないかってカツが言ってたけど、あれはびろんちょって長くて、
サリーには使いにくそうなんで、食器洗いにしてみたんや。

大成功やったね。ごしごしこするのは、気持ちよい事。
感じないって言ってたカツの足のウラ、ちょっと、くすぐったくなったね。
特に右足はこするとくすぐったいって逃げたね。
サリーはすっごいうれしかったよ!

「カツ、くすぐったいんや。ちゃんと感覚あるやんか!」って言うと
「ありがとう」って言った。それから、また泣き虫うさぎ。
あんな、泣くのは良いけど、後の鼻そうじは、またサリーの仕事やねんでー。

手の方は、点滴がとれたら、また手の温泉してあげるね。
1度に全部はサリーには無理。
1日、1ヵ所が目標やね。

髪の毛はこの間、はさみの先で全部ほどいた。
あれは、かなり大変やった。

最初、看護婦さんからは、ほどくのはかなり難しいから切っても良いですか?と言われてた。

切る?カツのトレードマークの金髪を?
サリーには考えもつかない発想。病院の考え。
とりあえずおいといてもらって、本当に良かった。
手足同様、汗とほこりで完全にドレッドだった。
はさみの先っちょで、つっつきながら、時間をかけてほどいた。
羊毛をつむいでる気分だったよ。

カツも、本当なら、他にもやってほしい事あっただろうに。
美容院に座ってるみたいに、じっとおとなしくしてたね。
カツだって本当は切ってほしくなかったんや。

病人は、半分、やけくそになってる。
切っても良いですか?と看護婦に言われると、嫌と言う人は少ないと思う。
でめな、やっぱりやなもんは嫌って言った方が良い。

ほどけた髪は「水のいらないシャンプー」ってのと100円ショップで買った洗髪用のブラシでとかしたら、
あらまあ、と、すっきり!昔どおりのしゃっきりカツのできあがり!

やね。

これは、カツがICUにいる頃から思ってたけど、、インスピレーションと想像力の勝負やねんな。
サリーは、カツの目を見て、「何が言いたいんや」って思った。
思ったからすぐに「ひらがな」(50音表の事)を作った。
目の動きと表情だけからしか読みとれなくてすごく時間がかかったけど、
カツには「伝えたい」サリーには「聞きたい」って言う気持ちがすごく強かった。
どんなに時間がかかっても良いから、カツの伝えたいことをどうしても聞きたかった。

最初に出来た文字は「おんがくもうだめ」やったね。
やっぱり想像してた通りの事、カツは考えとった。
あかんよ、カツ。サリーは必死やった。
とにかく、カツの脳に刺激を与えなあかんと思った。
サリーのその時の気持ちをいっぱい文字にした。

「ロングトールサリーまた聞きたいねん」

あの時のカツには、ノートいっぱいに書いたメッセージしか読めなかったね。

やっぱり、どうせわからないんだろうからって、あきらめたら、あかんかったって思う。
サリーはどうしても、カツにダメになってほしくなかったから、いっぱいいろんなアイデア考えたんよ。
ほんま、感謝してくれな、バチがあたるよ。

病院の1日はとても短い。やりたいことはたくさんあってもひとつひとつに時間がかかる。

すぐに夕方になる。
車イスから、ベッドにもどると、また首や背中が痛くなる。
車イスタイムの時には、忘れていた痛みがもどってくる。
特におしり。こればかりは仕方ない。

「カツがいろいろできるようになったから、痛いんやで」
そう言っても、痛いものは痛い。よくわかるよ、カツ。

カツのこの所のお気に入りはサリーへの腕まくら。
それは、サリーも、すごく好き。カツは「至福の時」って言う。
ふたりで、くっついてねるのが習慣やったからね。
寝る時間帯なんて、いつでも良いねん。
ふたりで、そうしていられる事が重要やねん。
カーテンを閉めて、ふたりだけの夢の世界。

早く本当に、ふたりだけの生活にもどりたいね、カツ。



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